盗聴法(通信傍受法案)

目 次

・第1章 総則(第1条・第2条)

・第2章 通信傍受の要件及び実施の手続(第3条~第18条)

・第3章 通信傍受の記録等(第19条~第27条)
・第4章 通信の秘密の尊重等(第28条~第30条)
・第5章 補則(第31条・第32条)

附則
第1章 総則
第1条(目的)

この法律は、組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害していることにかんがみ、数人の共謀によって実行される組織的な殺人、薬物及び銃器の不正取引に係る犯罪等の重大犯罪において、犯人間の相互連絡等に用いられる電話その他の電気通信の傍受を行わなければ事案の真相を解明することが著しく困難な場合が増加する状況にあることを踏まえ、これに適切に対処するため必要な刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)に規定する電気通信の傍受を行う強制の処分に関し、通信の秘密を不当に侵害することなく事案の真相の的確な解明に資するよう、その要件、手続その他必要な事項を定めることを目的とする。

第2条(定義)

1.この法律において「通信」とは、電話その他の電気通信であって、その伝送路の全部若しくは一部が有線(有線以外の方式で電波その他の電磁波を送り、又は受けるための電気的設備に附属する有線を除く。)であるもの又はその伝送路に交換設備があるものをいう。

2.この法律において「傍受」とは、現に行われている他人間の通信について、その内容を知るため、当該通信の当事者のいずれの同意も得ないで、これを受けることをいう。
3.この法律において「通信事業者等」とは、電気通信を行うための設備(以下「電気通信設備」という。)を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供する事業を営む者及びそれ以外の者であって自己の業務のために不特定又は多数の者の通信を媒介することのできる電気通信設備を設置している者をいう。

第2章 通信傍受の要件及び実施の手続
第3条(傍受令状)

1.検察官又は司法警察員は、次の各号のいずれかに該当する場合において、当該各号に規定する犯罪(第2号及び第3号にあっては、その一連の犯罪をいう。)の実行、準備又は証拠隠滅等の事後措置に関する謀議、指示その他の相互連絡その他当該犯罪の実行に関連する事項を内容とする通信(以下この項において「犯罪関連通信」という。)が行われると疑うに足りる状況があり、かつ、他の方法によっては、犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるときは、裁判官の発する傍受令状により、電話番号その他発信元又は発信先を識別するための番号又は符号(以下「電話番号等」という。)によって特定された通信の手段(以下「通信手段」という。)であって、被疑者が通信事業者等との間の契約に基づいて使用しているもの(犯人による犯罪関連通信に用いられる疑いがないと認められるものを除く。)又は犯人による犯罪関連通信に用いられると疑うに足りるものについて、これを用いて行われた犯罪関連通信の傍受をすることができる。

  • 別表に掲げる罪が犯されたと疑うに足りる十分な理由がある場合において、当該犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき。
  • 別表に掲げる罪が犯され、かつ、引き続き次に掲げる罪が犯されると疑うに足りる十分な理由がある場合において、これらの犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき。
    • 当該犯罪と同様の態様で犯されるこれと同一又は同種の別表に掲げる罪
    • 当該犯罪の実行を含む一連の犯行の計画に基づいて犯される別表に掲げる罪
  • 死刑又は無期若しくは長期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪が別表に掲げる罪と一体のものとしてその実行に必要な準備のために犯され、かつ、引き続き当該別表に掲げる罪が犯されると疑うに足りる十分な理由がある場合において、当該犯罪が数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があるとき。
  • 別表に掲げる罪であって、譲渡し、譲受け、貸付け、借受け又は交付の行為を罰するものについては、前項の規定にかかわらず、数人の共謀によるものであると疑うに足りる状況があることを要しない。
  • 前2項の規定による傍受は、通信事業者等の看守する場所で行う場合を除き、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内においては、これをすることができない。ただし、住居主若しくは看守者又はこれらの者に代わるべき者の承諾がある場合は、この限りでない。
  • 第4条(令状請求の手続)
    1. 傍受令状の請求は、検察官(検事総長が指定する検事に限る。次項及び第7条において同じ。)又は司法警察員(国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警視以上の警察官、厚生大臣が指定する麻薬取締官及び海上保安庁長官が指定する海上保安官に限る。同項及び同条において同じ。)から地方裁判所の裁判官にこれをしなければならない。
    2. 検察官又は司法警察員は、前項の請求をする場合において、当該請求に係る被疑事実の全部又は一部と同一の被疑事実について、前に同一の通信手段を対象とする傍受令状の請求又はその発付があったときは、その旨を裁判官に通知しなければならない。
    第5条(傍受令状の発付)
    1. 前条第1項の請求を受けた裁判官は、同項の請求を理由があると認めるときは、傍受ができる期間として10日以内の期間を定めて、傍受令状を発する。
    2. 裁判官は、傍受令状を発する場合において、傍受の実施(通信の傍受をすること及び通信手段について直ちに傍受をすることができる状態で通信の状況を監視することをいう。以下同じ。)に関し、適当と認める条件を付することができる。
    第6条(傍受令状の記載事項)

    傍受令状には、被疑者の氏名、被疑事実の要旨、罪名、罰条、傍受すべき通信、傍受の実施の対象とすべき通信手段、傍受の実施の方法及び場所、傍受ができる期間、傍受の実施に関する条件、有効期間及びその期間経過後は傍受の処分に着手することができず傍受令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他最高裁判所規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。ただし、被疑者の氏名については、これが明らかでないときは、その旨を記載すれば足りる。

    第7条(傍受ができる期間の延長)
    1. 地方裁判所の裁判官は、必要があると認めるときは、検察官又は司法警察員の請求により、10日以内の期間を定めて、傍受ができる期間を延長することができる。ただし、傍受ができる期間は、通じて30日を超えることができない。
    2. 前項の延長は、傍受令状に延長する期間及び理由を記載し記名押印してこれをしなければならない。
    第8条(同一事実に関する傍受令状の発付)

    裁判官は、傍受令状の請求があった場合において、当該請求に係る被疑事実に前に発付された傍受令状の被疑事実と同一のものが含まれるときは、同一の通信手段については、更に傍受をすることを必要とする特別の事情があると認めるときに限り、これを発付することができる。

    第9条(傍受令状の提示)
    1. 傍受令状は、通信手段の傍受の実施をする部分を管理する者(会社その他の法人又は団体にあっては、その役職員。以下同じ。)又はこれに代わるべき者に示さなければならない。ただし、被疑事実の要旨については、この限りでない。
    2. 傍受ができる期間が延長されたときも、前項と同様とする。
    第10条(必要な処分等)
    1. 傍受の実施については、電気通信設備に傍受のための機器を接続することその他の必要な処分をすることができる。
    2. 検察官又は司法警察員は、検察事務官又は司法警察職員に前項の処分をさせることができる。
    第11条(通信事業者等の協力義務)

    検察官又は司法警察員は、通信事業者等に対して、傍受の実施に関し、傍受のための機器の接続その他の必要な協力を求めることができる。この場合においては、通信事業者等は、正当な理由がないのに、これを拒んではならない。

    第12条(立会い)
    1. 傍受の実施をするときは、通信手段の傍受の実施をする部分を管理する者又はこれに代わるべき者を立ち会わせなければならない。これらの者を立ち会わせることができないときは、地方公共団体の職員を立ち会わせなければならない。
    2. 立会人は、検察官又は司法警察員に対し、当該傍受の実施に関し意見を述べることができる。
    第13条(該当性判断のための傍受)
    1. 検察官又は司法警察員は、傍受の実施をしている間に行われた通信であって、傍受令状に記載された傍受すべき通信(以下単に「傍受すべき通信」という。)に該当するかどうか明らかでないものについては、傍受すべき通信に該当するかどうかを判断するため、これに必要な最小限度の範囲に限り、当該通信の傍受をすることができる。
    2. 外国語による通信又は暗号その他その内容を即時に復元することができない方法を用いた通信であって、傍受の時にその内容を知ることが困難なため、傍受すべき通信に該当するかどうかを判断することができないものについては、その全部の傍受をすることができる。この場合においては、速やかに、傍受すべき通信に該当するかどうかの判断を行わなければならない。
    第14条(他の犯罪の実行を内容とする通信の傍受)

    検察官又は司法警察員は、傍受の実施をしている間に、傍受令状に被疑事実として記載されている犯罪以外の犯罪であって、別表に掲げるもの又は死刑若しくは無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たるものを実行したこと、実行していること又は実行することを内容とするものと明らかに認められる通信が行われたときは、当該通信の傍受をすることができる。

    第15条(医師等の業務に関する通信の傍受の禁止)

    医師、歯科医師、助産婦、看護婦、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人又は宗教の職にある者(傍受令状に被疑者として記載されている者を除く。)との間の通信については、他人の依頼を受けて行うその業務に関するものと認められるときは、傍受をしてはならない。

    第16条(相手方の電話番号等の探知)
    1. 検察官又は司法警察員は、傍受の実施をしている間に行われた通信について、これが傍受すべき通信若しくは第14条の規定により傍受をすることができる通信に該当するものであるとき、又は第13条の規定による傍受すべき通信に該当するかどうかの判断に資すると認めるときは、傍受の実施の場所において、当該通信の相手方の電話番号等の探知をすることができる。この場合においては、別に令状を必要としない。
    2. 検察官又は司法警察員は、通信事業者等に対して、前項の処分に関し、必要な協力を求めることができる。この場合においては、通信事業者等は、正当な理由がないのに、これを拒んではならない。
    3. 検察官又は司法警察員は、傍受の実施の場所以外の場所において第1項の探知のための措置を必要とする場合には、当該措置を執ることができる通信事業者等に対し、同項の規定により行う探知である旨を告知して、当該措置を執ることを要請することができる。この場合においては、前項後段の規定を準用する。
    第17条(傍受の実施を中断し又は終了すべき時の措置)

    傍受令状の記載するところに従い傍受の実施を中断し又は終了すべき時に現に通信が行われているときは、その通信手段の使用(以下「通話」という。)が終了するまで傍受の実施を継続することができる。

    第18条(傍受の実施の終了)

    傍受の実施は、傍受の理由又は必要がなくなったときは、傍受令状に記載された傍受ができる期間内であっても、これを終了しなければならない。

    第3章 通信傍受の記録等
    第19条(傍受をした通信の記録)
  • 傍受をした通信については、すべて、録音その他通信の性質に応じた適切な方法により記録媒体に記録しなければならない。この場合においては、第22条第2項の手続の用に供するため、同時に、同一の方法により他の記録媒体に記録することができる。
  • 傍受の実施を中断し又は終了するときは、その時に使用している記録媒体に対する記録を終了しなければならない。
  • 第20条(記録媒体の封印等)
    1. 前条第1項前段の規定により記録をした記録媒体については、傍受の実施を中断し又は終了したときは、速やかに、立会人にその封印を求めなければならない。傍受の実施をしている間に記録媒体の交換をしたときその他記録媒体に対する記録が終了したときも、同様とする。
    2. 前項の記録媒体については、前条第1項後段の規定により記録をした記録媒体がある場合を除き、立会人にその封印を求める前に、第22条第2項の手続の用に供するための複製を作成することができる。
    3. 立会人が封印をした記録媒体は、遅滞なく、傍受令状を発付した裁判官が所属する裁判所の裁判官に提出しなければならない。
    第21条(傍受の実施の状況を記載した書面の提出等)
    1. 検察官又は司法警察員は、傍受の実施の終了後、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を、前条第3項に規定する裁判官に提出しなければならない。第7条の規定により傍受ができる期間の延長を請求する時も、同様とする。
      1. 傍受の実施の開始、中断及び終了の年月日時
      2. 立会人の氏名及び職業
      3. 第12条第2項の規定により立会人が述べた意見
      4. 傍受の実施をしている間における通話の開始及び終了の年月日時
      5. 傍受をした通信については、傍受の根拠となった条項、その開始及び終了の年月日時並びに通信の当事者の氏名その他その特定に資する事項
      6. 第14条に規定する通信については、当該通信に係る犯罪の罪名及び罰条並びに当該通信が同条に規定する通信に該当すると認めた理由
      7. 記録媒体の交換をした年月日時
      8. 前条第1項の規定による封印の年月日時及び封印をした立会人の氏名
      9. その他傍受の実施の状況に関し最高裁判所規則で定める事項
    2. 前項に規定する書面の提出を受けた裁判官は、同項第6号の通信については、これが第14条に規定する通信に該当するかどうかを審査し、これに該当しないと認めるときは、当該通信の傍受の処分を取り消すものとする。この場合においては、第26条第3項、第5項及び第6項の規定を準用する。
    第22条(傍受記録の作成)
    1. 検察官又は司法警察員は、傍受の実施を中断し又は終了したときは、その都度、速やかに、傍受をした通信の内容を刑事手続において使用するための記録(以下「傍受記録」という。)一通を作成しなければならない。傍受の実施をしている間に記録媒体の交換をしたときその他記録媒体に対する記録が終了したときも、同様とする。
    2. 傍受記録は、第19条第1項後段の規定により記録をした記録媒体又は第20条第2項の規定により作成した複製から、次に掲げる通信以外の通信の記録を消去して作成するものとする。
      1. 傍受すべき通信に該当する通信
      2. 第13条第2項の規定により傍受をした通信であって、なおその内容を復元するための措置を要するもの
      3. 第14条の規定により傍受をした通信及び第13条第2項の規定により傍受をした通信であって第14条に規定する通信に該当すると認められるに至ったもの
      4. 前3号に掲げる通信と同一の通話の機会に行われた通信
    3. 前項第2号に掲げる通信の記録については、当該通信が傍受すべき通信及び第14条に規定する通信に該当しないことが判明したときは、傍受記録から当該通信の記録及び当該通信に係る同項第4号に掲げる通信の記録を消去しなければならない。ただし、当該通信と同一の通話の機会に行われた同項第1号から第3号までに掲げる通信があるときは、この限りでない。
    4. 検察官又は司法警察員は、傍受記録を作成した場合において、他に第20条第3項の規定により裁判官に提出した記録媒体(以下「傍受の原記録」という。)以外の傍受をした通信の記録をした記録媒体又はその複製等(複製その他記録の内容の全部又は一部をそのまま記録した物及び書面をいう。以下同じ。)があるときは、その記録の全部を消去しなければならない。前項の規定により傍受記録から記録を消去した場合において、他に当該記録の複製等があるときも、同様とする。
    5. 検察官又は司法警察員は、傍受をした通信であって、傍受記録に記録されたもの以外のものについては、その内容を他人に知らせ、又は使用してはならない。その職を退いた後も、同様とする。
    第23条(通信の当事者に対する通知)
    1. 検察官又は司法警察員は、傍受記録に記録されている通信の当事者に対し、傍受記録を作成した旨及び次に掲げる事項を書面で通知しなければならない。
      1. 当該通信の開始及び終了の年月日時並びに相手方の氏名(判明している場合に限る。)
      2. 傍受令状の発付の年月日
      3. 傍受の実施の開始及び終了の年月日
      4. 傍受の実施の対象とした通信手段
      5. 傍受令状に記載された罪名及び罰条
      6. 第14条に規定する通信については、その旨並びに当該通信に係る犯罪の罪名及び罰条
    2. 前項の通知は、通信の当事者が特定できない場合又はその所在が明らかでない場合を除き、傍受の実施が終了した後30日以内にこれを発しなければならない。ただし、地方裁判所の裁判官は、捜査が妨げられるおそれがあると認めるときは、検察官又は司法警察員の請求により、60日以内の期間を定めて、この項の規定により通知を発しなければならない期間を延長することができる。
    3. 検察官又は司法警察員は、前項本文に規定する期間が経過した後に、通信の当事者が特定された場合又はその所在が明らかになった場合には、当該通信の当事者に対し、速やかに、第1項の通知を発しなければならない。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
    第24条(傍受記録の聴取及び閲覧等)

    前条第1項の通知を受けた通信の当事者は、傍受記録のうち当該通信に係る部分を聴取し、若しくは閲覧し、又はその複製を作成することができる。

    第25条(傍受の原記録の聴取及び閲覧等)
    1. 傍受の原記録を保管する裁判官(以下「原記録保管裁判官」という。)は、傍受記録に記録されている通信の当事者が、前条の規定により、傍受記録のうち当該通信に係る部分を聴取し、若しくは閲覧し、又はその複製を作成した場合において、傍受記録の正確性の確認のために必要があると認めるときその他正当な理由があると認めるときは、当該通信の当事者の請求により、傍受の原記録のうち当該通信に相当する部分を聴取し、若しくは閲覧し、又はその複製を作成することを許可しなければならない。
    2. 原記録保管裁判官は、傍受をされた通信の内容の確認のために必要があると認めるときその他正当な理由があると認めるときは、傍受記録に記録されている通信以外の通信の当事者の請求により、傍受の原記録のうち当該通信に係る部分を聴取し、若しくは閲覧し、又はその複製を作成することを許可しなければならない。
    3. 原記録保管裁判官は、傍受が行われた事件に関し、犯罪事実の存否の証明又は傍受記録の正確性の確認のために必要があると認めるときその他正当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員の請求により、傍受の原記録のうち必要と認める部分を聴取し、若しくは閲覧し、又はその複製を作成することを許可することができる。ただし、複製の作成については、次に掲げる通信(傍受記録に記録されているものを除く。)に係る部分に限る。
      1. 傍受すべき通信に該当する通信
      2. 犯罪事実の存否の証明に必要な証拠となる通信(前号に掲げる通信を除く。)
      3. 前2号に掲げる通信と同一の通話の機会に行われた通信
    4. 次条第3項(第21条第2項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定により記録の消去を命じた裁判がある場合においては、前項の規定による複製を作成することの許可の請求は、同項の規定にかかわらず、当該裁判により消去を命じられた記録に係る通信が新たに同項第1号又は第2号に掲げる通信であって他にこれに代わるべき適当な証明方法がないものであることが判明するに至った場合に限り、傍受の原記録のうち当該通信及びこれと同一の通話の機会に行われた通信に係る部分について、することができる。ただし、当該裁判が次条第3項第2号に該当するとしてこれらの通信の記録の消去を命じたものであるときは、この請求をすることができない。
    5. 原記録保管裁判官は、検察官により傍受記録又はその複製等の取調べの請求があった被告事件に関し、被告人の防御又は傍受記録の正確性の確認のために必要があると認めるときその他正当な理由があると認めるときは、被告人又はその弁護人の請求により、傍受の原記録のうち必要と認める部分を聴取し、若しくは閲覧し、又はその複製を作成することを許可することができる。ただし、被告人が当事者でない通信に係る部分の複製の作成については、当該通信の当事者のいずれかの同意がある場合に限る。
    6. 検察官又は司法警察員が第3項の規定により作成した複製は、傍受記録とみなす。この場合において、第23条の規定の適用については、同条第1項中「次に掲げる事項」とあるのは「次に掲げる事項並びに第25条第3項の複製を作成することの許可があった旨及びその年月日」とし、同条第2項中「傍受の実施が終了した後」とあるのは「複製を作成した後」とする。
    7. 傍受の原記録については、第1項から第5項までの規定による場合のほか、これを聴取させ、若しくは閲覧させ、又はその複製を作成させてはならない。ただし、裁判所又は裁判官が、刑事訴訟法の定めるところにより、検察官により傍受記録若しくはその複製等の取調べの請求があった被告事件又は傍受に関する刑事の事件の審理又は裁判のために必要があると認めて、傍受の原記録のうち必要と認める部分を取り調べる場合においては、この限りでない。
    第26条(不服申立て)
    1. 裁判官がした通信の傍受に関する裁判に不服がある者は、その裁判官が所属する裁判所に、その裁判の取消し又は変更を請求することができる。
    2. 検察官又は検察事務官がした通信の傍受に関する処分に不服がある者はその検察官又は検察事務官が所属する検察庁の所在地を管轄する地方裁判所に、司法警察職員がした通信の傍受に関する処分に不服がある者はその職務執行地を管轄する地方裁判所に、その処分の取消し又は変更(傍受の実施の終了を含む。)を請求することができる。
    3. 裁判所は、前項の請求により傍受の処分を取り消す場合において、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、検察官又は司法警察員に対し、その保管する傍受記録(前条第6項の規定により傍受記録とみなされたものを除く。以下この項において同じ。)及びその複製等のうち当該傍受の処分に係る通信及びこれと同一の通話の機会に行われた通信の記録の消去を命じなければならない。ただし、第3号に該当すると認める場合において、当該記録の消去を命ずることが相当でないと認めるときは、この限りでない。
      1. 当該傍受に係る通信が、第22条第2項各号に掲げる通信のいずれにも当たらないとき。
      2. 当該傍受において、通信の当事者の利益を保護するための手続に重大な違法があるとき。
      3. 前2号に該当する場合を除き、当該傍受の手続に違法があるとき。
    4. 前条第3項の複製を作成することの許可が取り消されたときは、検察官又は司法警察員は、その保管する同条第6項の規定によりみなされた傍受記録(その複製等を含む。)のうち当該取り消された許可に係る部分を消去しなければならない。
    5. 第3項に規定する記録の消去を命ずる裁判又は前項に規定する複製を作成することの許可の取消しの裁判は、当該傍受記録又はその複製等について既に被告事件において証拠調べがされているときは、証拠から排除する決定がない限り、これを当該被告事件に関する手続において証拠として用いることを妨げるものではない。
    6. 前項に規定する裁判があった場合において、当該傍受記録について既に被告事件において証拠調べがされているときは、当該被告事件に関する手続においてその内容を他人に知らせ又は使用する場合以外の場合においては、当該傍受記録について第3項の裁判又は第4項の規定による消去がされたものとみなして、第22条第5項の規定を適用する。
    7. 第1項及び第2項の規定による不服申立てに関する手続については、この法律に定めるもののほか、刑事訴訟法第429条第1項及び第430条第1項の請求に係る手続の例による。
    第27条(傍受の原記録の保管期間)
    1. 傍受の原記録は、第20条第3項の規定による提出の日から5年を経過する日又は傍受記録若しくはその複製等が証拠として取り調べられた被告事件若しくは傍受に関する刑事の事件の終結の日から6月を経過する日のうち最も遅い日まで保管するものとする。
    2. 原記録保管裁判官は、必要があると認めるときは、前項の保管の期間を延長することができる。
    第4章 通信の秘密の尊重等
    第28条(関係者による通信の秘密の尊重等)

    検察官、検察事務官及び司法警察職員並びに弁護人その他通信の傍受に関与し、又はその状況若しくは傍受をした通信の内容を職務上知り得た者は、通信の秘密を不当に害しないように注意し、かつ、捜査の妨げとならないように注意しなければならない。

    第29条(国会への報告等)

    政府は、毎年、傍受令状の請求及び発付の件数、その請求及び発付に係る罪名、傍受の対象とした通信手段の種類、傍受の実施をした期間、傍受の実施をしている間における通話の回数、このうち第22条第2項第1号又は第3号に掲げる通信が行われたものの数並びに傍受が行われた事件に関して逮捕した人員数を国会に報告するとともに、公表するものとする。ただし、罪名については、捜査に支障を生ずるおそれがあるときは、その支障がなくなった後においてこれらの措置を執るものとする。

    第30条(通信の秘密を侵す行為の処罰等)
    1. 捜査又は調査の権限を有する公務員が、その捜査又は調査の職務に関し、電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第104条第1項又は有線電気通信法(昭和28年法律第96号)第14条第1項の罪を犯したときは、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
    2. 前項の罪の未遂は、罰する。
    3. 前2項の罪について告訴又は告発をした者は、検察官の公訴を提起しない処分に不服があるときは、刑事訴訟法第262条第1項の請求をすることができる。
    第5章 補則
    第31条(刑事訴訟法との関係)

    通信の傍受に関する手続については、この法律に特別の定めがあるもののほか、刑事訴訟法による。

    第32条 (最高裁判所規則)

    この法律に定めるもののほか、傍受令状の発付、傍受ができる期間の延長、記録媒体の封印及び提出、傍受の原記録の保管その他の取扱い、傍受の実施の状況を記載した書面の提出、第14条に規定する通信に該当するかどうかの審査、通信の当事者に対する通知を発しなければならない期間の延長、裁判所が保管する傍受記録の聴取及び閲覧並びにその複製の作成並びに不服申立てに関する手続について必要な事項は、最高裁判所規則で定める。

    附 則
    (施行期日)

    この法律は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

    (有線電気通信法の一部改正)

    有線電気通信法の一部を次のように改正する。第14条第1項中「1年」を「2年」に、「20万円」を「50万円」に改め、同条第2項中「2年」を「3年」に、「30万円」を「100万円」に改める。

    (電気通信事業法の一部改正)

    電気通信事業法の一部を次のように改正する。

    第104条第1項中「1年」を「2年」に、「30万円」を「50万円」に改め、同条第2項中「2年」を「3年」に、「50万円」を「100万円」に改める。

    別表(第3条、第14条関係)

    刑法(明治40年法律第45号)第77条第1項第1号若しくは第2号前段(内乱)の罪又はこれらの罪の未遂罪】

    1. 大麻取締法(昭和23年法律第124号)第24条(栽培、輸入等)又は第24条の2(所持、譲渡し等)の罪
    2. 覚せい剤取締法(昭和26年法律第252号)第41条(輸入等)若しくは第41条の2(所持、譲渡し等)の罪、同法第41条の3第1項第3号(覚せい剤原料の輸入等)若しくは第4号(覚せい剤原料の製造)の罪若しくはこれらの罪に係る同条第2項(営利目的の覚せい剤原料の輸入等)の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は同法第41条の4第1項第3号(覚せい剤原料の所持)若しくは第4号(覚せい剤原料の譲渡し等)の罪若しくはこれらの罪に係る同条第2項(営利目的の覚せい剤原料の所持、譲渡し等)の罪若しくはこれらの罪の未遂罪
    3. 出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)第74条(集団密航者を不法入国させる行為等)、第74条の2(集団密航者の輸送)又は第74条の4(集団密航者の収受等)の罪
    4. 麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)第64条(ジアセチルモルヒネ等の輸入等)、第64条の2(ジアセチルモルヒネ等の譲渡し、所持等)、第65条(ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の輸入等)、第66条(ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬の譲渡し、所持等)、第66条の3(向精神薬の輸入等)又は第66条の4(向精神薬の譲渡し等)の罪
    5. 武器等製造法(昭和28年法律第145号)第31条(銃砲の無許可製造)又は第31条の2第1号(銃砲以外の武器の無許可製造)の罪
    6. あへん法(昭和29年法律第71号)第51条(けしの栽培、あへんの輸入等)又は第52条(あへん等の譲渡し、所持等)の罪
    7. 銃砲刀剣類所持等取締法(昭和33年法律第6号)第31条から第31条の4まで(けん銃等の発射、輸入、所持、譲渡し等)、第31条の7から第31条の9まで(けん銃実包の輸入、所持、譲渡し等)、第31条の11第1項第2号(けん銃部品の輸入)若しくは第2項(未遂罪)又は第31条の16第1項第2号(けん銃部品の所持)若しくは第3号(けん銃部品の譲渡し等)若しくは第2項(未遂罪)の罪
    8. 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成3年法律第94号)第5条(業として行う不法輸入等)の罪
    9. 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成11年法律第136号)第3条第1項第3号に掲げる罪に係る同条(組織的な殺人等)の罪又はその未遂罪