日本は大丈夫なのか 米大使館を苦しめている「音響兵器」

キューバで米外交官とその家族が不可視媒体による遠隔からの攻撃を受けていた件についての記事です。

※以下転載



日本は大丈夫なのか 米大使館を苦しめている「音響兵器」
 [2017.10.5]

日本は大丈夫なのか 米大使館を苦しめている「音響兵器」

今、キューバで起きた奇怪なニュースが話題になっている。

 2017年9月29日、米国務省はキューバから米大使館員の半数以上を帰国させると発表した。その理由は、「これまで数カ月以上にわたり、多数の在キューバ米大使館の職員が、攻撃の標的になってきた。職員たちはその攻撃によって苦痛に苛まれてきた。彼らは、耳の病気や聴覚消失、めまいや頭痛、倦怠感や内臓機能障害、認識能力障害、睡眠障害など幅広い身体的な症状を訴えている」からだという。

 被害者の数は21人にも上り、すでに述べた症状以外にも、嘔吐、鼻血、平衡感覚障害、脳震盪(のうしんとう)や脳腫脹(のうしゅちょう)などの脳損傷、記憶障害、会話障害などが起きていると報じられている。

 恐ろしいことに、国務省はその攻撃がどんな種類のもので、誰が実行したのかは現時点で分からないとしている。しかも被害はカナダ大使館員にも広がっているという。

 当のキューバ政府は、一切の関与を否定。だが、2016年の米大統領選の候補でもあったキューバ系共和党員のマルコ・ルビオ上院議員は、「キューバ政府が知らないなんてことはふざけた話である」と、キューバ政府の主張を一蹴している。

 ではいったい何が起きたのか。被害者たちの中には、ベッドで横になった時にのみ振動と耳をつんざくようなノイズを感じていたと報告し、一方で何も感じていないまま被害を受けた者もいた。

 欧米では、この攻撃が実は「音波」を使ったものであるとの指摘が出ている。

 ちまたでは今、北朝鮮が上空で核爆発を起こして敵国のインフラなどを電磁波で破壊するという「電磁パルス攻撃」を行うのではないか、というSF小説のような話が出ている。筆者はそのシナリオに否定的な欧米専門家らと同じく電磁パルス攻撃が実際に行われることはないと見ているが、一方で音波の攻撃はすでに実用化されており、キューバで同種の攻撃が現実的に行われたとしても不思議ではないと感じている。

音波による攻撃とは一体どんなものか

 この音波による攻撃とは一体どんなものなのか。

 そもそもこの騒動は、2015年にキューバと国交を正常化したバラク・オバマ大統領のキューバ政策をひっくり返すと主張していたドナルド・トランプ大統領が、大統領に就任する前後から起きていたと見られている。最初に異変に気が付いたのはキューバに駐留していた米情報機関員で、2017年2月には、米政府側がキューバ政府に対し、米大使館員に問題が発生していることを伝えていた。そしてキューバ政府は捜査を実施したが、何も見つからなかったと発表している。

 その後、米政府も独自捜査を行う。FBI(連邦捜査局)の捜査員をキューバに派遣して捜査を実施したのだが、確たる原因は見つからなかったとしている。米国務省は、外交官の安全を守るというウィーン条約の規定にキューバ政府が違反したとして、5月には駐米のキューバ大使館関係者2名を国外退去処分にし、10月3日には追加で15人のキューバ人外交官をさらに退去処分にした。

 しかしそんな折、米政府関係者がメディアなどでこんなことを述べたのである。

 関係者によれば、攻撃は大使館員の宿舎近くか、内部で行われたと見られている。なんらかのデバイスが用いられ、そのデバイスからは人間の耳では聞き取れない音波が発せられたという。人体に影響を及ぼす超低周波または超音波の武器の可能性があると、米タイム誌などは報じている。

 「音響兵器」と言われるものは、理論的にみると、不快感や痛みを与えたり、最悪の場合は死をもたらすことができるという。

 事実、そうした兵器は世界でも使われている。2005年にはイスラエル軍が「ザ・スクリーム」という音波を発する兵器を使用し、その攻撃によって反体制派などは頭痛を感じたり、胃がねじれたり、膝ががくがくするような被害を受けたという。この兵器は「サウンド爆弾」とも呼ばれた。ちなみにイスラエルは漫画『ドラゴンボール』の「かめはめ波」のような衝撃波を放つ「サンダー・ジェネレーター」という武器も開発している。

「音」を使った作戦の歴史は古い

 最近では、米国の治安当局もこうした音波による「音響砲」と言われるものを実用化している。2009年にペンシルベニア州ピッツバーグでG20サミットが開催された際には、抗議デモを追い払うために、米軍と民間企業が開発した「LRAD」(Long Range Acoustic Devices=長距離音響装置)と呼ばれる音波砲が全米で初めて用いられた。YouTubeにアップされた当時の映像では、LRADの発する音により、デモ参加者が耳を塞ぎながら逃げる様子が見られる。

 この装置はシカゴやニューヨーク、メリーランド、カリフォルニアなどでも使われている。2014年にミズーリ州ファーガソンで黒人男性が殺害された事件をきっかけに勃発した暴動でも、この音響砲が現場で使われた。

 またLRADはすでに、イスラエルやポーランド、シンガポールやブラジルなど世界70カ国以上で導入されている。日本も捕鯨船に搭載して抗議デモ活動に対する攻撃として使用していた。

 現在、警察当局が導入している装置は音波レベルをおさえたモデルで、理想的な環境であれば2キロ先まで音が聞こえるという。一般的な市街地などでも650メートルは音が届くらしい。その装置で音波を大量出力した場合には、15メートル内にいる人は失聴し、300メートル圏内にいる人は頭痛など痛みを感じるとされる。

 また軍仕様の上位モデルとなれば、最大162デジベルの音を出し、最大で9キロまで明瞭に音を届けることができる。ちなみに飛行機のエンジン音は、近くで聞くと120db(デジベル)ほどある。この装置は人を失聴させてしまうなどの恐れがあり、米国内ではその使用に反対の声も上がっている。

 ご存じの方もいるかもしれないが、もともと軍事的に「音」を使った作戦の歴史は古い。第二次大戦の時代には、ナチスが大量に人を殺害する目的で、音響砲の攻撃を研究していたとの話もある。

 また「音」という広い意味で見れば、米軍は昔から使っていた。ベトナム戦争や、パナマ危機などで大音量の楽曲で敵を翻弄(ほんろう)する作戦が実施されているし、2003年のイラク戦争でも、米軍はイラク人捕虜に対して、米ヘビメタバンドのメタリカの「エンター・サンドマン」や、ビー・ジーズの「ステイン・アライブ」、子供向けテレビ番組「セサミストリート」のテーマ曲など大音量で絶え間なく流し続け、心理的に追い詰める作戦を行っていた。

日本は大丈夫なのか

 想像してみてほしい。窓のない暗いコンクリートの部屋で、24時間絶え間なくヘビメタが大音量で流れる中に放置されたら、常人なら発狂するだろう。脳と身体機能が乖離(かいり)し、思考が阻害され、意思が削がれると米軍関係者が米メディアで指摘しているが、国際的な人権団体などはその手の攻撃は拷問に値する可能性があるとしている。

 米軍では特殊部隊のトレーニングの一環で、子供用テレビ番組の曲を大音量で45分ほど聴くというものがある。これはかなり過酷な訓練として知られているという。

 とにかく、こうした「音」を使った攻撃はすでに実用化されている。そして最近、キューバの米大使館に対して行われた可能性が取りざたされているのだが、ここまで見てきた通り、音波による攻撃で大使館員に健康被害をもたらすことはできそうである。

 一方で、もちろん現時点で原因は音波であると100%確定されたわけではないし、生物・化学系の何かが使われた可能性も排除できない。またキューバでロシアや北朝鮮などの別の政府が関与して米大使館に対して何らかの攻撃を行ったというケースも考えられ、そうなればキューバ政府は関係ないということになる。

 また現時点では、大使館員らの不調が音波を使った攻撃によるものだとする説を否定的に見ている専門家も少なくない。彼らは大使館のような環境では、大使館員の苦情にあった「脳損傷」まで引き起こすことは考えにくいとしている。

 ただいずれにせよ、現実にそうした攻撃が不可能ではないことは確かだ。そしてこれが現実として可能な攻撃であれば、日本だって対岸の火事では済まされない。最近何かと騒がしい北朝鮮が何かしでかす可能性も否定できない。

 2020年には世界的な大イベントである東京五輪やラグビーのW杯などを控える日本も、在キューバ米大使館問題の顛末(てんまつ)を注視しておいたほうがよさそうだ。

音響計器(Wikipedia)

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